結婚式場を兼ねるホテル。上階の部屋に電気がついているように見えるが、反射。 民家のような建物とビルに分かれる。 入るとすぐにフロント。カフェやロビーもあった。 フロントは落ち着いた色合い。 「化粧室」ではなく「美粧室」。「化粧室」と書くとトイレと間違える人がいたのだろう。 その美粧室の中。赤いイスだけがこの部屋の目的を物語る。 そのイスの一つに、履歴書が無造作に放置。 孝典は料理をしたくて、ここを希望した。 神前式スタイル。葬式はルーツの宗教が重視されるが、結婚式は軽視される。 披露宴会場。葬式では死体が披露されるが、結婚式では新郎新婦が披露される。 その会場もこれでもかと荒らされている。その目的はなにか。 お目出たい金屏風も、今は破れ燻みきる。 こんなものまで持ち込まれている。しかし普通、乳房を「ぶっとい」とは表現しない。 豪華な雰囲気を醸し出す照明装置も、今では頭上の危険物になり果てた。 式を挙げた二人の影。光学的瞬間。この宇宙は光と時間の均衡で成り立っている。 引き出物と吹き出物は似ている。形骸化して何のためにしているのか不明な習慣。 転がるBB弾。サバゲーマーは結婚式場でもテロ活動に余念がない。 さて、ホテルの客室には、廃墟になってから誰かが棲んでいた形跡が残る。 ジャケットまで残されている。仕事をしながらここに隠れ棲んでいたらしい。 残ったメモには、業者への支払い残高が記されていた。 そして大量のゴミ。弁当の容器・酒ビン・古雑誌・古本・エロ本。ここで誰かが孤独に戦った。 元が寝泊まりする場所だけあって、廃墟後もある程度快適だったのかもしれない。 宴会場は未だに生ビール祭り。散らばる意味不明なゴミで祝う。 パンフレットにはモデルの女性が艶やかな着物姿で影を残す。 日本の美とはケとハレ。普段は詫び寂び、節目では貯めていた色彩を一斉に放つ。 西洋の美には、そのコントラストが希薄。しかし女性は服装のための儀式を好む。 宴会場の回転テーブルに赤いロウソクを垂らした跡。ここで何をしたのだろうか。 その円卓にはパンフが。青空の下、現役時代の施設が映える。 今はゴミが散乱する廃墟も、過日には煌びやかな空間だった。 1階にはお食事処。「開運」というめでたい名の酒。 生け簀があり、ここで泳いでいた魚を目の前で調理した。 血の跡のように散らばる紅葉のバラン。 新郎新婦の始めての共同作業は、大抵これ。婚前交渉当たり前の時代の形骸。 燃え尽きた蝋燭のように二人の愛も燃え尽きませんように。
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